月影ラジオ企画プレゼント★最終回 & 猪口渉★聖誕祭!!!!!
さあ、今回もやってきました 【月影ラジオ企画プレゼント】 だぞ~☆彡
早いもんで今日で最終回……去年の霜月からの大々的な企画だったし、俺はちょっぴり淋しいです。
なんて暗い顔ばかりしてはいられないな! 最後だからこそ、ぱーっと盛大にやらないと!!
あ、ところで話は変わるけど何で渉くんがこの最終回になったのか……妹であるお前は勿論気付いてるよな!
――そう、今月28日は 【猪口渉くん★聖誕祭】 だからだ!!
このラジオ企画の最終回と合わせていつにも増してとってもとってもゴージャスな内容になってま~っす♪
【 シチュエーション : 和服姿でお茶を飲む猪口さん】

いやぁ……さすが根っからの良家の子っていうか、なんか育ちの良さが滲み出てるよなぁ。
和装も洋装も華麗に着こなせちゃうところにも、俺は憧れを隠せません!
ほら、こんなイケメンと一緒に休日に野点とかどうだ?
縁台の上に緋毛繊敷いてさ、綺麗な傘の下で抹茶を点てて貰って……
ああ、良いなぁ……俺も和服の似合う綺麗なお姉さんに野点して貰いたい!!
……と、ちょっと妄想が過ぎたな。そしてリクエストをくれた三凪、ありがとなっ!
ツイッターで配布してるLINE用アイコンも是非使ってやってくれよ★
そして、お誕生日ということで何か公開出来るものがないかと尋ねたところ、
な、なんとミニキャラ担当のうしかわ先生に、『月影の鎖 -錯乱パラノイア-』VITA版の特典缶バッジ没イラストを頂きました!!

愛らしいケモミミミニキャラの中には、こんなのもあったんだなぁ!
完成版は勿論だが、こっちも可愛いなぁ……くそっ、俺もいつか……
とか思ってたけど、良く考えたら俺もケモミミついてたことあったっけ☆てへ
……っと。そんな訳で、ここからいよいよショートストーリーの公開だぞ♪
リクエストをくれたちょとつもーしん。、どうもありがとなー!!
【 シチュエーション : 主人公に日頃のお礼に贈り物をしようとして頭を悩ませる猪口さん】
更に、お誕生日ということで今回は居酒屋トークも続けて、二本立てでお贈りしちゃいま~っす☆
題して 『 お魚博士爆誕祭’2016 ~友情について本気だして考えてみた(自称友人が)~ 』 !!
楽しんでくれよな!!
早いもんで今日で最終回……去年の霜月からの大々的な企画だったし、俺はちょっぴり淋しいです。
なんて暗い顔ばかりしてはいられないな! 最後だからこそ、ぱーっと盛大にやらないと!!
あ、ところで話は変わるけど何で渉くんがこの最終回になったのか……妹であるお前は勿論気付いてるよな!
――そう、今月28日は 【猪口渉くん★聖誕祭】 だからだ!!
このラジオ企画の最終回と合わせていつにも増してとってもとってもゴージャスな内容になってま~っす♪
【 シチュエーション : 和服姿でお茶を飲む猪口さん】

いやぁ……さすが根っからの良家の子っていうか、なんか育ちの良さが滲み出てるよなぁ。
和装も洋装も華麗に着こなせちゃうところにも、俺は憧れを隠せません!
ほら、こんなイケメンと一緒に休日に野点とかどうだ?
縁台の上に緋毛繊敷いてさ、綺麗な傘の下で抹茶を点てて貰って……
ああ、良いなぁ……俺も和服の似合う綺麗なお姉さんに野点して貰いたい!!
……と、ちょっと妄想が過ぎたな。そしてリクエストをくれた三凪、ありがとなっ!
ツイッターで配布してるLINE用アイコンも是非使ってやってくれよ★
そして、お誕生日ということで何か公開出来るものがないかと尋ねたところ、
な、なんとミニキャラ担当のうしかわ先生に、『月影の鎖 -錯乱パラノイア-』VITA版の特典缶バッジ没イラストを頂きました!!

愛らしいケモミミミニキャラの中には、こんなのもあったんだなぁ!
完成版は勿論だが、こっちも可愛いなぁ……くそっ、俺もいつか……
とか思ってたけど、良く考えたら俺もケモミミついてたことあったっけ☆てへ
……っと。そんな訳で、ここからいよいよショートストーリーの公開だぞ♪
リクエストをくれたちょとつもーしん。、どうもありがとなー!!
【 シチュエーション : 主人公に日頃のお礼に贈り物をしようとして頭を悩ませる猪口さん】
更に、お誕生日ということで今回は居酒屋トークも続けて、二本立てでお贈りしちゃいま~っす☆
題して 『 お魚博士爆誕祭’2016 ~友情について本気だして考えてみた(自称友人が)~ 』 !!
楽しんでくれよな!!
「それでは渉さん、本日も一日お疲れ様でした。……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ……」
俺の名前を呼ぶその涼やかで優しい声は、体の上から静かに布団を被せて微笑む。
誰もが寝静まった丑三つ刻、俺達は灯りを落とし漸く就寝を迎えた。
欲しいものはただ……
(ふぅ……)
すると間もなく彼女の規則正しい寝息が聞こえてきて、俺は思わず苦笑を漏らした。
暫くこうして猪口の家に毎日のように通い続けている彼女。
朝になれば陽が昇る前に帰宅し家の仕事を終え店を少しだけ早めに切り上げ、また陽の落ちた頃にこの家にやってくる。
だがそんな生活を送っているのは、忙しく働く俺の力になりたいと彼女が義母に申し出てくれたからだ。
市長補佐となった俺の近頃の忙しさは尋常では無かった。
瞬く間に進んでいく時代の波。追いつかない制度を改革していく為、話し合いに話し合いを重ねて打開案を模索していく。
そして議会を通して決定したことを漸く制度として試す時が来たのだが、やはり机上だけでは分からないことは多く、
試すことで初めて見えてくる問題の処理に、俺は日夜追われているという訳だ。
――“少しでもお傍にいられたら”。
昨夜、俺は他愛もない雑談からたまたま彼女が漏らしたという一言を義母から聞くことになった。
俺の前では“力になりたいから”と決して甘えたことを言わないが彼女だが、それを聞くとやはり胸が熱くなった。
猪口の家に来れば直ぐに義母の手伝いに精を出す彼女。終わってもこうして挨拶をする為だけに俺の帰りを待っていてくれる。
そんな彼女と、まともに顔を合わせて話したのはもうどれだけ前になるのだろう。
隣で静かに眠る彼女を横目に見て、……それからゆっくりと目を閉じた。
本当は何処かに連れ出してやりたい。だが、そういった時間を取ることも今の俺には不可能だ。
だとすれば、日頃の彼女への感謝として一体何をしたら良いだろう。
(やはり……ここは、贈り物だろうか)
俺は知り合って間もない頃の、彼女への贈り物を思い出す。
まだ彼女のことなど殆ど何も知らず、ただ女性の好きそうなものを……と思い選んだ耳飾り。
だが今なら、――彼女のことを知っている今だからこそ、贈れるものがあるだろう。
……そう、例えば彼女の好む“料理”に関するものだ。
女将になる為に必要だからというだけではなく、彼女自身料理を作るのが好きらしく、創作料理にも積極的に手を出している。
ならば何か調理器具でも贈れば良いのではないだろうか……
そこまで思い至り、俺は彼女が好んで作る料理の傾向を知らないことに気付いた。
もう古くなってしまっている調理器具を新調するという考えもあるが、何が古くなってしまっているのかも俺には分からない。
髪飾り、反物、帯、他にも様々考えたけれど、彼女がどんな形を好むか、色を好むか、
俺は今更になって、思った以上に彼女のことを知らないことに気付く。
……しかし思い返せば、知り合う間もなかった俺達。仕方ない部分もあるのかも知れない。
言い方は良くないかも知れないが、“それどころじゃなかった”から。
(だが裏を返せば、“今はその余裕がある”ということだ)
……それこそ、俺達の努力の賜と言えるだろう。
(知りたい……)
彼女のことを知りたいし、勿論、自分のことも彼女に沢山伝えたい。
時間が欲しい。もっともっとお互いの時間が。
その為には、なんとしても仕事を終わらせなければ。
終わらせて、食卓には彼女が喜ぶような美味い料理を作りたい。
思い立てばあれこれと、頭の中を駆け巡る計画。
眠気もすっかり吹き飛んでしまった俺は、居ても立っても居られず早速行動に移しだした――。
夜釣りではいつもと違う魚を釣り上げ、
彼女には気付かれないよう、朝には家に帰り、何事もなかったかのように出勤した。
仕事にはいつも以上に全力で臨み、やるべきことはしっかりと片付けた。
そして家に帰れば驚く彼女を尻目に、夜釣りで釣り上げた魚を捌いてタタキを作った。
その間は当初の目的など綺麗さっぱり忘れてしまっていた俺だったが、
「……有り難う御座います。貴方とこうして貴方の手作りの料理を食べられて……頂けて、お話も沢山出来て、本当に嬉しいです」
「……そうか、それは良かった。喜んで貰えて何よりだ」
(これもひとつの贈り物かも知れないな)
彼女は俺がどんなものを渡してもきっと喜んでくれるだろう。
そして、その中で好みの物を渡せば確実にもっと喜んでくれると自信を持って言える。
だが、ほんのりと頬を染め感極まったような彼女の顔を見ていると、
何より欲しかったのはやはり俺と同じ、こんな穏やかな時間だったのかも知れない。
そんな風に思う。
「仕事が一段落ついたら、何処か旅行にでも行くか」
「え……?」
「俺ももっと、お前の傍にいたいんだよ。一緒にいられなかった分も、取り返したい」
――“少しでもお傍にいられたら”
俺はそんな彼女の言葉を思いだし、そっとその唇に口付けた。
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★お誕生日記念居酒屋トーク
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お魚博士爆誕祭’2016 ~友情について本気だして考えてみた(自称友人が)~
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【注意:はじめに】
大井川 「初見に非常に優しくないのが居酒屋トークの仕様である」
大井川 「……あ、ちなみに今回の話にはオニオコゼがたっくさん出てくるから、是非先に画像検索をしておくことをお勧めする!」
大井川 「但し、ちょーっとだけ見た目がグロテスクな魚だから、そういうのが苦手な妹は要注意★……以上!!」
【場所:確か温泉街の居酒屋だかなんだか】
榛名 「……今日さ、渉の誕生日なんだよ」
望月 「……え?」
榛名 「耳に団子でも詰まってるんじゃないの? こんな至近距離で聞こえないとか」
望月 「いえ、聞こえてましたけど……猪口さんの誕生日なんですよね?」
榛名 「聞こえてる癖に聞き返したの? ちょっと、同じこと言わせて僕の手間増やすとか性格悪いんじゃない?」
大井川 「ま、まあまあ……でも、理也くんの気持ちも少しは分かるぞ?」
榛名 「なんでさ」
大井川 「いや、今日が誕生日だって前もって知ってたら、渉くんの誕生日を皆で祝えたじゃない?」
榛名 「だから今言ったでしょ?」
大井川 「いや、だから前もって……」
榛名 「これでも悩んだんだよ! だって渉の誕生日は僕と彼女と渉で祝えば良いし! 君らなんて要らないし!」
望月 「ちょ」
榛名 「でも……でも、彼女は残念だけど先に用事が入ってて……しかも“皆さんでお祝いしてあげてくださいね”って……」
榛名 「だから苦渋の決断で君らにも声を掛けようと思ったんだけど、それを拒む“内なる僕”が“表層の僕”とせめぎ合いを始めて……ほら、そうしたら今日のこの時間になったんだ」
望月 「ちっとも頭に入ってこない説明でしたけど」
榛名 「それは君が人の話を聞く気が全くないからだよ本当人として酷いよね」
望月 「全部俺側の責任ですか」
大井川 「んーと……とりあえず現状をまとめよう?」
大井川 「つまり今日望くんが俺達を居酒屋に呼び出したのは、渉くんの誕生日を皆でお祝いする為ってことだよね?」
榛名 「そうだよ最初から言ってるじゃない」
大井川 「言ってたかな!? ……いや、まあそこは置いといて」
望月 「お祝いするのは全然構いませんが……あの、誕生日プレゼントを何も用意してないのはどうしたら」
榛名 「ああ、それなら僕が君らの分も用意しておいた。後でお金請求するから宜しく」
望月 「……猪口さんの為です。払いましょう」
大井川 「き、金額とか……大丈夫? こんなこと言うのもあれだけど、お高くない?」
榛名 「そこは大丈夫だよ。高給取りじゃない君達も手に入れられるであろうリーズナブルなものを選んだから!」
大井川 「軽く侮辱されたけどさっすが~! で、見せてもらっても良い?」
榛名 「ふふん。……どうぞ?」
望月 「わぁ異様に得意げ」
大井川 「どれどれ……」
大井川 「…………」
望月 「……? 大井川さん?」
大井川 「ええと……これは何かな? この……凄い怖い顔のやつ……」
榛名 「ああそれ? オニオコゼの抱き枕」
大井川 「抱き心地悪そう……!! 何でこれチョイスしたの?! 他に選択肢は?!」
榛名 「良いんだよ! だって渉オニオコゼ好きだもん!」
望月 「食べるのが、ですよね? 別にオニオコゼ愛好家じゃありませんよね?」
榛名 「うるさいなほらそれはもう十分見ただろ! さっさと次の見てよ!」
望月 「はいはい。えーと……」
望月 「…………」
大井川 「……ど、どした? 理也くん」
望月 「疲れ目かな」
大井川 「え?」
望月 「俺にはこの袋の中にも先程と同じオニオコゼが入っているように見えるんですが」
大井川 「……本当だ。俺の目にも同じオニオコゼが入っているように……え、望くん?」
榛名 「同じだけど?」
望月 「……俺らが理解できる言語でご説明頂けますか?」
榛名 「だ、だって渉の好きなもの、オニオコゼ以外に知らないんだもん!」
望月 「え、えー……?」
大井川 「理也くん、棒読み、棒読みになっちゃってる」
榛名 「優しくて頼りがいがあって格好良くてどういう思考をしてるか……そういうことは分かるんだ。それと家族構成もね」
榛名 「だけど渉が何を好きで何が嫌いかとか、そういうことは分からない。……当たり前だよね、そういう突っ込んだ会話とか、してこなかったし」
榛名 「でも……それでも僕と渉は友達なんだ」
大井川 「望くん……」
望月 「……結果、オニオコゼを二匹買うことになったと」
榛名 「僕、生まれ変わっても君とだけは絶対友達になれないしならない」
望月 「正論を言っただけなのに」
大井川 「ところでこれ、この島で買ったの?」
榛名 「いや、本土に行ってきた」
望月 「わざわざ!?」
榛名 「当たり前だろ親友の誕生日なんだから! それくらいするに決まってるじゃない!」
大井川 (その間仕事はどうしてたんだろう、彼……確か上司と一緒にこの島に来てたんだよな?)
大井川 「……で、望くんは何をプレゼントするの?」
榛名 「ほらこれ」
望月 「うわあオニオコゼ三匹目……!!」
榛名 「ちょ、一緒にしないでよ。このオニオコゼはオニオコゼでも君達のオニオコゼとは性能が違うんだよ」
大井川 「……どこがどう?」
榛名 「まず両目を押すとオルゴール曲が流れる。リラックスするのに最適でしょ? 後、このちょっとあいた口に手を突っ込むとそっと甘噛みしてくれる。可愛いでしょ。更にこの背びれを両手に挟んでこすると……ほら、ちょっとバナナの匂いがする!」
望月 「いらない機能目白押し……! ……というか何故バナナなんです?」
榛名 「ああ、好きな匂いをその場でしみこませてくれるサービスがあって、その時はバナナしか残ってなかった」
望月 「そ、そうですか……」
大井川 「……でもお高いんでしょ?」
榛名 「うん。通常のオニオコゼの価格の5倍」
望月 (そのお金があれば恐らくもっと素敵なものが買えたに違いない……)
榛名 「……君、また僕を馬鹿にするようなこと考えてたでしょ」
望月 「いえ、滅相もない」
大井川 「いやー、でもこれで準備万端だな! それで、渉くんはいつ来るの?」
榛名 「ああ、それなら……」
猪口 「すみません神楽坂さん。わざわざこうして祝ってくださって」
神楽坂 「なに、これも何かの縁さ」
望月 「…………」
大井川 「…………」
望月 「……疲れ目かな。向こうの席で団子狂と猪口さんが和やかに談笑してるように見える」
大井川 「いやー……現実かな? 俺にも楽しそうにお酒飲んでるように見えるよ?」
望月 「榛名さん。誕生日会をやるって件、猪口さんに伝えてあるんですよね?」
榛名 「……伝えてない」
望月 「何故」
榛名 「だって準備に手間取ると思ったんだ! だから全部終わったら渉を連れてこようと……」
大井川 「なるほどー。そうこうしているうちにああなったと」
神楽坂 「……それにしても君」
猪口 「はい、なんでしょう?」
神楽坂 「今日はあの熱心な友人と一緒じゃないのだね」
猪口 「……榛名望のことですか?」
神楽坂 「ああ」
榛名 「!」
望月 「……聞き耳は趣味が良くありませんが、今だけは静かにしてますか」
大井川 「……だな。望くんの為に」
神楽坂 「それとももう祝って貰ったのかな?」
猪口 「いえ……最近は向こうも忙しいのか、ここ暫く会ってません」
大井川 (……そりゃ、本土に行ってりゃ会えないだろうな)
猪口 「そもそも、俺の誕生日を覚えているのか……」
神楽坂 「……覚えていると思うぞ。確実に」
猪口 「そう……でしょうか。それなら……少し嬉しいかも知れません」
猪口 「望とは余り、お互い突っ込んだ会話はしたことがないんです。当たり障りのないこととか、社会情勢のこととか……」
猪口 「だから俺も、望が何を好きで何を嫌いかが分からない」
神楽坂 「……ふむ、そうだったのか」
猪口 「ああでも……月の畔の女将にぞっこんなのは知ってますよ。……それと、アイツの誕生日も知ってる」
猪口 「……ああ、そういえば甘いものも好きだったな。……ふふ、そうだそうだった」
神楽坂 「良い関係じゃないか」
猪口 「そうでしょうか」
神楽坂 「ああ。良いと思うよ。今の君達にはそれで十分だからこそ、友情が続いているんだろう」
神楽坂 「……友人は生涯のものだ。多少性格に難があるとしても、大事にしたまえ」
猪口 「ふふっ……そうですね」
榛名 「…………」
望月 「……榛名さん」
榛名 「……なんだよ」
大井川 「望くん、行ってきなよ。たとえ何も用意してなかったとしても、彼なら“おめでとう”の言葉だけで喜んでくれるよ」
望月 (……大井川さんの中ではこのオニオコゼはプレゼントにカウントされてないようだ)
榛名 「…………」
望月 「頬を膨らませて……子供ですか貴方」
榛名 「煩い! 行ってきます!」
大井川 「いってらっしゃーい」
猪口 「いや、それにしてもこの日本酒は美味いですね。のど越しといい……」
神楽坂 「だろう? 島の衆が俺の為に新しい銘柄を拵えてくれてね。その名も“英雄殺――」
榛名 「あ、あのっ!」
猪口 「! なんだ、望じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
榛名 「そんなの、君に“おめでとう”を言いに来たに決まってるじゃないか!」
猪口 「そう……なのか……?」
榛名 「そうだよおめでとうっ!」
猪口 「…………。……はは、ありがとう。……祝ってくれて嬉しいよ」
神楽坂 「さて、誕生日と言えば祝いの品だが……何かないのかね?」
榛名 「! ええと……」
望月 「……オニオコゼならありますよ?」
大井川 「はい、みっつほど」
榛名 「……なんだよ、君らも来たのかよ……」
望月 「ええ」
猪口 「オニオコゼ……?」
神楽坂 「酔いが醒める大きさだな……」
榛名 「あの……本土で買ってきたんだ。渉が前に好きだって言ってたから」
猪口 「そうか……わざわざありがとう、望」
榛名 「……と、友達の為だからね! やすいものだよ!」
猪口 「でも俺はオニオコゼが好きだったのか。初耳だな」
望月 「…………」
大井川 「…………」
榛名 「え……?」
猪口 「確かにオニオコゼは美味いが……別に見た目が好きな訳ではないからな」
榛名 「…………」
望月 「……榛名さん、ご愁傷さまです」
榛名 「肩ぽんってするなよ! クソッ……!」
猪口 「いや、でも有り難く頂くよ。三つとも貰えるなら一つはノアにやってもいいかな?」
榛名 「勿論だよ!」
大井川 「ちょ、ちょっとノアくんには早い気が……」
猪口 「……? バナナの匂いがするな」
榛名 「ああ、それはね? ここをこうして……」
大井川 「……いやあ、友情っていいなぁ。ねえ? 理也くん」
望月 「……そうですね、ああいうのは憧れます」
神楽坂 「君らも何者にも代えがたい友人を作れば良いじゃないか」
望月 「そう簡単に出来ないからこそ“何者にも代えがたい”んだと思いますけど」
大井川 「あ、でも俺は理也くんのこと友達だと思ってるから!」
望月 「あ……は、はい……あの、ありがとうございます……」
神楽坂 「普通はそこで『俺もですよ』なり言うのだよ全く君と言う奴は」
望月 「はいはいはい」
神楽坂 「さて、折角だから君らもこちらの席に移ってきたまえ。どうせろくに食べていないのだろう?」
望月 「……はい。仕事上がりで呼び出しくらったので、実は腹が空いてます」
大井川 「……へへ、右に同じく」
神楽坂 「ではさっさと手荷物をまとめてこちらにくること」
望月・大井川 「はい!」
神楽坂 「やれやれ……」
猪口 「……これは凄いな。まさかこんな機能があるとは」
榛名 「だよね! 渉なら分かってくれると思ったよ!」
神楽坂 「…………」
神楽坂 (憧れる、か)
神楽坂 (……まあ、榛名の呼びかけに応じた時点でそれはもう相手に対し“友情”を感じていると思って差し支えないと思うが)
神楽坂 (そんな青臭いことはわざわざ口にするまでもないな)
神楽坂 「……ふむ、少々酔いが回ったかな」
榛名 「ちょっと止めてよ! おじさんが酔っ払うと性質悪いんだからさ!」
猪口 「こら望! 神楽坂さん、良ければご自宅までお送りしますから」
神楽坂 「ああ、ありがとう猪口」
猪口 「いえ」
神楽坂 「……そうだ猪口。俺も肝心なことを伝え忘れていた」
猪口 「? なんでしょう」
神楽坂 「おめでとう。君の行く末に光があらんことを」
猪口 「あ……」
猪口 「……はい、ありがとうございます!」
おわり
「ああ、おやすみ……」
俺の名前を呼ぶその涼やかで優しい声は、体の上から静かに布団を被せて微笑む。
誰もが寝静まった丑三つ刻、俺達は灯りを落とし漸く就寝を迎えた。
欲しいものはただ……
(ふぅ……)
すると間もなく彼女の規則正しい寝息が聞こえてきて、俺は思わず苦笑を漏らした。
暫くこうして猪口の家に毎日のように通い続けている彼女。
朝になれば陽が昇る前に帰宅し家の仕事を終え店を少しだけ早めに切り上げ、また陽の落ちた頃にこの家にやってくる。
だがそんな生活を送っているのは、忙しく働く俺の力になりたいと彼女が義母に申し出てくれたからだ。
市長補佐となった俺の近頃の忙しさは尋常では無かった。
瞬く間に進んでいく時代の波。追いつかない制度を改革していく為、話し合いに話し合いを重ねて打開案を模索していく。
そして議会を通して決定したことを漸く制度として試す時が来たのだが、やはり机上だけでは分からないことは多く、
試すことで初めて見えてくる問題の処理に、俺は日夜追われているという訳だ。
――“少しでもお傍にいられたら”。
昨夜、俺は他愛もない雑談からたまたま彼女が漏らしたという一言を義母から聞くことになった。
俺の前では“力になりたいから”と決して甘えたことを言わないが彼女だが、それを聞くとやはり胸が熱くなった。
猪口の家に来れば直ぐに義母の手伝いに精を出す彼女。終わってもこうして挨拶をする為だけに俺の帰りを待っていてくれる。
そんな彼女と、まともに顔を合わせて話したのはもうどれだけ前になるのだろう。
隣で静かに眠る彼女を横目に見て、……それからゆっくりと目を閉じた。
本当は何処かに連れ出してやりたい。だが、そういった時間を取ることも今の俺には不可能だ。
だとすれば、日頃の彼女への感謝として一体何をしたら良いだろう。
(やはり……ここは、贈り物だろうか)
俺は知り合って間もない頃の、彼女への贈り物を思い出す。
まだ彼女のことなど殆ど何も知らず、ただ女性の好きそうなものを……と思い選んだ耳飾り。
だが今なら、――彼女のことを知っている今だからこそ、贈れるものがあるだろう。
……そう、例えば彼女の好む“料理”に関するものだ。
女将になる為に必要だからというだけではなく、彼女自身料理を作るのが好きらしく、創作料理にも積極的に手を出している。
ならば何か調理器具でも贈れば良いのではないだろうか……
そこまで思い至り、俺は彼女が好んで作る料理の傾向を知らないことに気付いた。
もう古くなってしまっている調理器具を新調するという考えもあるが、何が古くなってしまっているのかも俺には分からない。
髪飾り、反物、帯、他にも様々考えたけれど、彼女がどんな形を好むか、色を好むか、
俺は今更になって、思った以上に彼女のことを知らないことに気付く。
……しかし思い返せば、知り合う間もなかった俺達。仕方ない部分もあるのかも知れない。
言い方は良くないかも知れないが、“それどころじゃなかった”から。
(だが裏を返せば、“今はその余裕がある”ということだ)
……それこそ、俺達の努力の賜と言えるだろう。
(知りたい……)
彼女のことを知りたいし、勿論、自分のことも彼女に沢山伝えたい。
時間が欲しい。もっともっとお互いの時間が。
その為には、なんとしても仕事を終わらせなければ。
終わらせて、食卓には彼女が喜ぶような美味い料理を作りたい。
思い立てばあれこれと、頭の中を駆け巡る計画。
眠気もすっかり吹き飛んでしまった俺は、居ても立っても居られず早速行動に移しだした――。
夜釣りではいつもと違う魚を釣り上げ、
彼女には気付かれないよう、朝には家に帰り、何事もなかったかのように出勤した。
仕事にはいつも以上に全力で臨み、やるべきことはしっかりと片付けた。
そして家に帰れば驚く彼女を尻目に、夜釣りで釣り上げた魚を捌いてタタキを作った。
その間は当初の目的など綺麗さっぱり忘れてしまっていた俺だったが、
「……有り難う御座います。貴方とこうして貴方の手作りの料理を食べられて……頂けて、お話も沢山出来て、本当に嬉しいです」
「……そうか、それは良かった。喜んで貰えて何よりだ」
(これもひとつの贈り物かも知れないな)
彼女は俺がどんなものを渡してもきっと喜んでくれるだろう。
そして、その中で好みの物を渡せば確実にもっと喜んでくれると自信を持って言える。
だが、ほんのりと頬を染め感極まったような彼女の顔を見ていると、
何より欲しかったのはやはり俺と同じ、こんな穏やかな時間だったのかも知れない。
そんな風に思う。
「仕事が一段落ついたら、何処か旅行にでも行くか」
「え……?」
「俺ももっと、お前の傍にいたいんだよ。一緒にいられなかった分も、取り返したい」
――“少しでもお傍にいられたら”
俺はそんな彼女の言葉を思いだし、そっとその唇に口付けた。
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★お誕生日記念居酒屋トーク
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お魚博士爆誕祭’2016 ~友情について本気だして考えてみた(自称友人が)~
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【注意:はじめに】
大井川 「初見に非常に優しくないのが居酒屋トークの仕様である」
大井川 「……あ、ちなみに今回の話にはオニオコゼがたっくさん出てくるから、是非先に画像検索をしておくことをお勧めする!」
大井川 「但し、ちょーっとだけ見た目がグロテスクな魚だから、そういうのが苦手な妹は要注意★……以上!!」
【場所:確か温泉街の居酒屋だかなんだか】
榛名 「……今日さ、渉の誕生日なんだよ」
望月 「……え?」
榛名 「耳に団子でも詰まってるんじゃないの? こんな至近距離で聞こえないとか」
望月 「いえ、聞こえてましたけど……猪口さんの誕生日なんですよね?」
榛名 「聞こえてる癖に聞き返したの? ちょっと、同じこと言わせて僕の手間増やすとか性格悪いんじゃない?」
大井川 「ま、まあまあ……でも、理也くんの気持ちも少しは分かるぞ?」
榛名 「なんでさ」
大井川 「いや、今日が誕生日だって前もって知ってたら、渉くんの誕生日を皆で祝えたじゃない?」
榛名 「だから今言ったでしょ?」
大井川 「いや、だから前もって……」
榛名 「これでも悩んだんだよ! だって渉の誕生日は僕と彼女と渉で祝えば良いし! 君らなんて要らないし!」
望月 「ちょ」
榛名 「でも……でも、彼女は残念だけど先に用事が入ってて……しかも“皆さんでお祝いしてあげてくださいね”って……」
榛名 「だから苦渋の決断で君らにも声を掛けようと思ったんだけど、それを拒む“内なる僕”が“表層の僕”とせめぎ合いを始めて……ほら、そうしたら今日のこの時間になったんだ」
望月 「ちっとも頭に入ってこない説明でしたけど」
榛名 「それは君が人の話を聞く気が全くないからだよ本当人として酷いよね」
望月 「全部俺側の責任ですか」
大井川 「んーと……とりあえず現状をまとめよう?」
大井川 「つまり今日望くんが俺達を居酒屋に呼び出したのは、渉くんの誕生日を皆でお祝いする為ってことだよね?」
榛名 「そうだよ最初から言ってるじゃない」
大井川 「言ってたかな!? ……いや、まあそこは置いといて」
望月 「お祝いするのは全然構いませんが……あの、誕生日プレゼントを何も用意してないのはどうしたら」
榛名 「ああ、それなら僕が君らの分も用意しておいた。後でお金請求するから宜しく」
望月 「……猪口さんの為です。払いましょう」
大井川 「き、金額とか……大丈夫? こんなこと言うのもあれだけど、お高くない?」
榛名 「そこは大丈夫だよ。高給取りじゃない君達も手に入れられるであろうリーズナブルなものを選んだから!」
大井川 「軽く侮辱されたけどさっすが~! で、見せてもらっても良い?」
榛名 「ふふん。……どうぞ?」
望月 「わぁ異様に得意げ」
大井川 「どれどれ……」
大井川 「…………」
望月 「……? 大井川さん?」
大井川 「ええと……これは何かな? この……凄い怖い顔のやつ……」
榛名 「ああそれ? オニオコゼの抱き枕」
大井川 「抱き心地悪そう……!! 何でこれチョイスしたの?! 他に選択肢は?!」
榛名 「良いんだよ! だって渉オニオコゼ好きだもん!」
望月 「食べるのが、ですよね? 別にオニオコゼ愛好家じゃありませんよね?」
榛名 「うるさいなほらそれはもう十分見ただろ! さっさと次の見てよ!」
望月 「はいはい。えーと……」
望月 「…………」
大井川 「……ど、どした? 理也くん」
望月 「疲れ目かな」
大井川 「え?」
望月 「俺にはこの袋の中にも先程と同じオニオコゼが入っているように見えるんですが」
大井川 「……本当だ。俺の目にも同じオニオコゼが入っているように……え、望くん?」
榛名 「同じだけど?」
望月 「……俺らが理解できる言語でご説明頂けますか?」
榛名 「だ、だって渉の好きなもの、オニオコゼ以外に知らないんだもん!」
望月 「え、えー……?」
大井川 「理也くん、棒読み、棒読みになっちゃってる」
榛名 「優しくて頼りがいがあって格好良くてどういう思考をしてるか……そういうことは分かるんだ。それと家族構成もね」
榛名 「だけど渉が何を好きで何が嫌いかとか、そういうことは分からない。……当たり前だよね、そういう突っ込んだ会話とか、してこなかったし」
榛名 「でも……それでも僕と渉は友達なんだ」
大井川 「望くん……」
望月 「……結果、オニオコゼを二匹買うことになったと」
榛名 「僕、生まれ変わっても君とだけは絶対友達になれないしならない」
望月 「正論を言っただけなのに」
大井川 「ところでこれ、この島で買ったの?」
榛名 「いや、本土に行ってきた」
望月 「わざわざ!?」
榛名 「当たり前だろ親友の誕生日なんだから! それくらいするに決まってるじゃない!」
大井川 (その間仕事はどうしてたんだろう、彼……確か上司と一緒にこの島に来てたんだよな?)
大井川 「……で、望くんは何をプレゼントするの?」
榛名 「ほらこれ」
望月 「うわあオニオコゼ三匹目……!!」
榛名 「ちょ、一緒にしないでよ。このオニオコゼはオニオコゼでも君達のオニオコゼとは性能が違うんだよ」
大井川 「……どこがどう?」
榛名 「まず両目を押すとオルゴール曲が流れる。リラックスするのに最適でしょ? 後、このちょっとあいた口に手を突っ込むとそっと甘噛みしてくれる。可愛いでしょ。更にこの背びれを両手に挟んでこすると……ほら、ちょっとバナナの匂いがする!」
望月 「いらない機能目白押し……! ……というか何故バナナなんです?」
榛名 「ああ、好きな匂いをその場でしみこませてくれるサービスがあって、その時はバナナしか残ってなかった」
望月 「そ、そうですか……」
大井川 「……でもお高いんでしょ?」
榛名 「うん。通常のオニオコゼの価格の5倍」
望月 (そのお金があれば恐らくもっと素敵なものが買えたに違いない……)
榛名 「……君、また僕を馬鹿にするようなこと考えてたでしょ」
望月 「いえ、滅相もない」
大井川 「いやー、でもこれで準備万端だな! それで、渉くんはいつ来るの?」
榛名 「ああ、それなら……」
猪口 「すみません神楽坂さん。わざわざこうして祝ってくださって」
神楽坂 「なに、これも何かの縁さ」
望月 「…………」
大井川 「…………」
望月 「……疲れ目かな。向こうの席で団子狂と猪口さんが和やかに談笑してるように見える」
大井川 「いやー……現実かな? 俺にも楽しそうにお酒飲んでるように見えるよ?」
望月 「榛名さん。誕生日会をやるって件、猪口さんに伝えてあるんですよね?」
榛名 「……伝えてない」
望月 「何故」
榛名 「だって準備に手間取ると思ったんだ! だから全部終わったら渉を連れてこようと……」
大井川 「なるほどー。そうこうしているうちにああなったと」
神楽坂 「……それにしても君」
猪口 「はい、なんでしょう?」
神楽坂 「今日はあの熱心な友人と一緒じゃないのだね」
猪口 「……榛名望のことですか?」
神楽坂 「ああ」
榛名 「!」
望月 「……聞き耳は趣味が良くありませんが、今だけは静かにしてますか」
大井川 「……だな。望くんの為に」
神楽坂 「それとももう祝って貰ったのかな?」
猪口 「いえ……最近は向こうも忙しいのか、ここ暫く会ってません」
大井川 (……そりゃ、本土に行ってりゃ会えないだろうな)
猪口 「そもそも、俺の誕生日を覚えているのか……」
神楽坂 「……覚えていると思うぞ。確実に」
猪口 「そう……でしょうか。それなら……少し嬉しいかも知れません」
猪口 「望とは余り、お互い突っ込んだ会話はしたことがないんです。当たり障りのないこととか、社会情勢のこととか……」
猪口 「だから俺も、望が何を好きで何を嫌いかが分からない」
神楽坂 「……ふむ、そうだったのか」
猪口 「ああでも……月の畔の女将にぞっこんなのは知ってますよ。……それと、アイツの誕生日も知ってる」
猪口 「……ああ、そういえば甘いものも好きだったな。……ふふ、そうだそうだった」
神楽坂 「良い関係じゃないか」
猪口 「そうでしょうか」
神楽坂 「ああ。良いと思うよ。今の君達にはそれで十分だからこそ、友情が続いているんだろう」
神楽坂 「……友人は生涯のものだ。多少性格に難があるとしても、大事にしたまえ」
猪口 「ふふっ……そうですね」
榛名 「…………」
望月 「……榛名さん」
榛名 「……なんだよ」
大井川 「望くん、行ってきなよ。たとえ何も用意してなかったとしても、彼なら“おめでとう”の言葉だけで喜んでくれるよ」
望月 (……大井川さんの中ではこのオニオコゼはプレゼントにカウントされてないようだ)
榛名 「…………」
望月 「頬を膨らませて……子供ですか貴方」
榛名 「煩い! 行ってきます!」
大井川 「いってらっしゃーい」
猪口 「いや、それにしてもこの日本酒は美味いですね。のど越しといい……」
神楽坂 「だろう? 島の衆が俺の為に新しい銘柄を拵えてくれてね。その名も“英雄殺――」
榛名 「あ、あのっ!」
猪口 「! なんだ、望じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
榛名 「そんなの、君に“おめでとう”を言いに来たに決まってるじゃないか!」
猪口 「そう……なのか……?」
榛名 「そうだよおめでとうっ!」
猪口 「…………。……はは、ありがとう。……祝ってくれて嬉しいよ」
神楽坂 「さて、誕生日と言えば祝いの品だが……何かないのかね?」
榛名 「! ええと……」
望月 「……オニオコゼならありますよ?」
大井川 「はい、みっつほど」
榛名 「……なんだよ、君らも来たのかよ……」
望月 「ええ」
猪口 「オニオコゼ……?」
神楽坂 「酔いが醒める大きさだな……」
榛名 「あの……本土で買ってきたんだ。渉が前に好きだって言ってたから」
猪口 「そうか……わざわざありがとう、望」
榛名 「……と、友達の為だからね! やすいものだよ!」
猪口 「でも俺はオニオコゼが好きだったのか。初耳だな」
望月 「…………」
大井川 「…………」
榛名 「え……?」
猪口 「確かにオニオコゼは美味いが……別に見た目が好きな訳ではないからな」
榛名 「…………」
望月 「……榛名さん、ご愁傷さまです」
榛名 「肩ぽんってするなよ! クソッ……!」
猪口 「いや、でも有り難く頂くよ。三つとも貰えるなら一つはノアにやってもいいかな?」
榛名 「勿論だよ!」
大井川 「ちょ、ちょっとノアくんには早い気が……」
猪口 「……? バナナの匂いがするな」
榛名 「ああ、それはね? ここをこうして……」
大井川 「……いやあ、友情っていいなぁ。ねえ? 理也くん」
望月 「……そうですね、ああいうのは憧れます」
神楽坂 「君らも何者にも代えがたい友人を作れば良いじゃないか」
望月 「そう簡単に出来ないからこそ“何者にも代えがたい”んだと思いますけど」
大井川 「あ、でも俺は理也くんのこと友達だと思ってるから!」
望月 「あ……は、はい……あの、ありがとうございます……」
神楽坂 「普通はそこで『俺もですよ』なり言うのだよ全く君と言う奴は」
望月 「はいはいはい」
神楽坂 「さて、折角だから君らもこちらの席に移ってきたまえ。どうせろくに食べていないのだろう?」
望月 「……はい。仕事上がりで呼び出しくらったので、実は腹が空いてます」
大井川 「……へへ、右に同じく」
神楽坂 「ではさっさと手荷物をまとめてこちらにくること」
望月・大井川 「はい!」
神楽坂 「やれやれ……」
猪口 「……これは凄いな。まさかこんな機能があるとは」
榛名 「だよね! 渉なら分かってくれると思ったよ!」
神楽坂 「…………」
神楽坂 (憧れる、か)
神楽坂 (……まあ、榛名の呼びかけに応じた時点でそれはもう相手に対し“友情”を感じていると思って差し支えないと思うが)
神楽坂 (そんな青臭いことはわざわざ口にするまでもないな)
神楽坂 「……ふむ、少々酔いが回ったかな」
榛名 「ちょっと止めてよ! おじさんが酔っ払うと性質悪いんだからさ!」
猪口 「こら望! 神楽坂さん、良ければご自宅までお送りしますから」
神楽坂 「ああ、ありがとう猪口」
猪口 「いえ」
神楽坂 「……そうだ猪口。俺も肝心なことを伝え忘れていた」
猪口 「? なんでしょう」
神楽坂 「おめでとう。君の行く末に光があらんことを」
猪口 「あ……」
猪口 「……はい、ありがとうございます!」
おわり
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